こんにちは、普段は内科を中心に無床診療所で診療を続けている篠原といいます。
このたびご縁がありまして、こちらで食事、腸、免疫に関するテーマで執筆させていただきます。
食の西欧化
皆さんは普段どのような食事をされているでしょうか。
現代の日本では非常に多くの種類の食品があります。
昔ながらの和食のほかにも、洋食、中華料理をはじめとして世界各国の料理が外食でも自宅でも楽しめる時代になっています。
これらは非常に魅力的な外観や味で人々を強力に引き付けます。
私も普段の食事は、朝はパン、ソーセージ、サラダ、ヨーグルト、果物など、昼は仕出し弁当、夕食はご飯と味噌汁と主菜として炒め物や焼き物などで、カレーライスや餃子、パスタなどの時もあります。
たまに外食をしてファミリーレストランや回転ずしなどに行きます。
これらは果たして健康的であるでしょうか?健康と食事に関していろいろな格言がありますが、私の場合は医者の不養生といわれそうです。
健康的な食事をすすめる医者はおいしくて見た目もよく魅力的な食事を作る料理人にかなわないという言葉もあります。
さあ、これからあなたの口から肛門まで約10mの旅をしましょう
これらの食事はどのように体に取り込まれるか基本的なことをおさらいしてみましょう。
まず食べ物は口に入ると、歯で咀嚼することで細かく分かれ、アミラーゼという消化酵素を含む唾液とよく混ぜ合わされます。
舌には味覚のセンサーがあり、甘い、しょっぱい、辛い、酸っぱい、うまい、などの感覚を脳に伝えています。この味覚は古代の人類から大きく変化していないことが予想されます。
古代においてはおいしい食物はそれほど多くなく、味覚のセンサーは生きるために有利に働いていたと思います。
現代ではおいしい食品や料理が楽しめますが、かつては生存に有利に働いた味覚も、現代では味覚に従って食事をとるとかえって健康を害する可能性があります。
さて、飲み込んだ食品は食道を通過して胃に到達します。
ここでは胃酸と混ぜ合わされ、攪拌されます。
十二指腸に進むと、胆汁、膵液といった消化液が混ぜ合わされます。
たんぱく質や脂質も分解されていきます。その先の小腸は絨毛という凹凸が発達した組織で、表面積が増加しており、すべて広げるとテニスコートに相当するとされています。
ここではさらに細かく分解された栄養素が吸収され、大腸では残りの水分が吸収されることになります。
食物繊維がなぜ良いの?
食品に含まれる代表的な栄養素は糖質、脂質、たんぱく質、ビタミンなどですが、以前はそれほど注目されていなくて最近特に注目されて研究されているものに、食物繊維があります。
食物繊維は栄養素として吸収されることはないため、人間にとって特に有益なものではなく、かつては便秘にならないように食物繊維をとりましょうと勧められていた程度でした。
近年では食物繊維は便の材料になるほかに、他の栄養素が吸収されるスピードを緩和したり、胆汁に含まれるコレステロールを吸着して体外に排出させたり、腸内細菌に食事となって腸内細菌を育てたりバランスをよくする作用があるとわかってきています。
腸内細菌も同様に、以前は食物の分解を助け、ビタミンを産生する働きがあることが知られていた程度でしたが、免疫力にかかわる様々な報告が増えています。
主に腸内細菌のバランスが崩れた場合に疾病との関係が指摘されています。
いくつか例を挙げると、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患などの腸の病気や、リウマチや甲状腺などの自己免疫疾患、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、喘息などのアレルギー性の病気などと腸内細菌の関係が指摘されています。
腸内には非常に多くの種類と量の細菌が生息しています。
種類は約千種類、量は細菌の数で言うと100兆ぐらい、遺伝子の数で言うと数百万あるとされます。
人間の細胞の数が37兆ぐらい、遺伝子の数が2万1000とされていますので、重さや体積などの点では人間のほうが多いですが、細胞の数や遺伝子の数で表現すると腸内細菌のほうがはるかに多いということになります。
これらの微生物の種類は、口、胃、腸など環境が異なるために、生息する場所によって種類が異なります。
口腔内は好気性という空気があっても繁殖できるものが多いです。
唾液に含まれる天然の抗菌作用をもつ物質にもさらされています。
胃には胃酸がありますので、多くの有害な微生物を殺菌することができます。
この胃酸の中でも生きていけるのが有名なピロリ菌です。
ピロリ菌はアンモニアを分解することでアルカリを作り、胃酸を中和しながら生息しています。
十二指腸ではやはり胆汁や膵液といった強力な消化液にさらされます。
小腸は多くの微生物にとって繁殖に適した場所です。
空気がない場所で繁殖する嫌気性菌が主になります。
よく知られているビフィズス菌や乳酸菌もここに含まれています。
腸内を地球上の大地に例えると、様々な腸内細菌は植物と思っていただければよいかと思います。
それぞれの腸内細菌がある程度の群落を作りながら種類の豊富な密林を形成しています。
ここに消化液と混ざって半分分解された食品が流れてきます。
そうすると、当然ながらその環境に適した植物が育ち、その人の食生活に適合した植相、つまり腸内細菌叢を形成すると考えられます。
お母さんから赤ちゃんに引き継がれる腸内細菌
人間の最もはじめの状態である、お腹の中にいる赤ちゃんの腸の中はどうなっているでしょうか。
赤ちゃんの皮膚にも腸の中にも細菌はいないはずです。
生まれてきてお母さんの産道に生息する微生物が最初の微生物との出会いです。
産道の近くの皮膚にはお母さんの腸内細菌もいるはずです。
その後お母さんのおっぱいやミルクを飲んで育つわけですが、ここで肌と肌がふれあい、お母さんの皮膚に住んでいる細菌が赤ちゃんの皮膚にも住むようになります。
赤ちゃんはいろいろなものを触っていろいろなものをなめて、人間の住む環境中にある微生物を体に取り込んでいきます。
赤ちゃんが飲むのはおっぱいやミルクの種類によって、その飲んだものに適応した種類の腸内細菌が育っていくことになります。
離乳食を食べ始めるとどうでしょうか。
日本では、おかゆから初めて、野菜を少しずつ初めて、肉や魚や卵なども徐々に取り入れていき、それに適した腸内細菌が育ちます。
主食・野菜・肉や魚の種類、調味料やスパイスが異なれば、育つ腸内細菌も異なることが予想されます。
時代や育った国によってその人にあった腸内細菌があると考えられるというわけです。
食の長い歴史とこの100年の急変に腸内細菌もアップアップ
ここで、日本人の腸内細菌の変化を考えていきたいと思います。
人間の遺伝的な性質は比較的ゆっくりとした時間の流れで変化することが考えられます。
例えば、仮に何世代も前であっても人間の性質はそれほど変わらないでしょう。
お父さん、お母さん、おじいさん、おばあさん、ひいおじいさん、ひいおばあさんと、みなさんと生きる時代は違いますが、体の性質はそれほど変わりないでしょう。
それがさらにもっと前の、昭和、大正、明治、江戸時代、さらにもっと前の戦国時代や鎌倉、平安時代、さらにさかのぼって石器時代、縄文時代、弥生時代であっても大きな変わりはないでしょう。
それに比べて食品はこの間に大きく変化しています。
その変化のスピードは現代に近づくにつれて加速していると思います。
例えば、狩猟採集時代、肉や魚や貝を加熱し、果物や果実をたべていたでしょう、農耕が始まると米や雑穀、豆類を食べるようになったでしょう、食品を長く保存するために、干物、漬物などができ、おそらく偶発的な要素から発酵という手法を手に入れて、酒類、味噌、納豆、寿司などの各種発酵食品を発明しました。
どの食品も新たに取り入れられたときにはその時代の人間の腸内細菌に何らかの変化を起こし、健康にも何らかの影響を与えたと思います。
この100~200年ぐらいの日本の食の変化の速度はおそらくそれ以前のものに比べて比較的急速な変化であろうと思います。
運搬技術の発達、国際化によって、世界各国の食材や料理が手に入り、鮮度も保たれるようになっているからです。そうすると、この100年ほどの日本人あるいは世界の人々の腸内細菌の種類や数はそれ以前のものに比べて比較的大きく変化している可能性があります。
この100~200年の食の変化を端的にいうと、食の西欧化ということになると思います。
主食がパンやパスタ、乳製品や肉、アルコールはワインやビール、そのほかにピザやハンバーガー、動物性の脂肪などの摂取が増えたと思います。
この結果起きた健康への影響を考えてみますと、おそらく栄養が充足したことによる体格の向上、公衆衛生の向上や抗菌薬などの医学的な発展とともに寿命の延長などが良い点としてあげられるでしょう。
良くない点としては生活習慣病、動脈硬化などによる心筋梗塞などや肥満などがあげられます。
そのほかには洋風の生活様式例えば、気密性の高い住宅環境によりホコリなどのアレルゲンへの暴露が増えることや寄生虫や衛生害虫の暴露が減ることなども腸内細菌の環境には影響がありそうです。
腸内細菌が関係する病気 腹痛のイメージ
腸内細菌が関係している思われる病気の中で頻度の高いものには、過敏性腸症候群というものがあります。
内視鏡などで検査しても腸の中には異常がないのですが、動きや働きに問題があるとされ、便秘や下痢、腹痛やガスがたまって苦しくなることなどを頻繁におこすものです。
過敏性腸症候群が起こるきっかけの一つに、急性腸炎や抗生物質の使用などがあげられます。
急性腸炎はウイルスや細菌などに感染して急に嘔吐や腹痛、下痢などが起こるものです。これらのことがきっかけで腸内細菌も影響をうけ、種類や数が変化してしまうことがあります。
抗生物質の使用も、目的の部位の細菌をやっつけるほかに、どうしても腸内細菌にも影響を与えてしまい、その抗菌薬が効果を発揮する菌種が大幅に減少してしまいます。
このようにして腸内細菌の種類や数が変化することが、過敏性腸症候群というものを引き起こすことがあるのです。
過敏性腸症候群の治療にはいくつかの方法がありますが、お腹に有用な菌を薬にしたものがあります。
これを継続的に内服することで先行して住み着いている腸内細菌に、人体に有用な細菌を割込みさせるというものです。
ほかに最近注目されている治療方法に糞便移植というものがあります。
これは、お腹が好調で快便な人の腸内細菌をお腹の調子が悪い人の腸の中に送り込んで腸内細菌の種類や数を人間に好ましいものに変える治療です。
まだ広く治療が行われるほどに実用化されてはいないですが大変注目を集めています。
ほかに腸内細菌そのものが病気と強い関連をもつものに、まれな病気ですが、自動醸造症候群というものがあります。
これは、ある種の真菌がお腹の中で繁殖して、飲食した炭水化物や糖類をアルコール発酵してしまうというものです。
この病気の方たちは、お酒を飲んでいないのに、腸の中でアルコールが生成されてしまうために常にお酒を飲んでいる状態と同じになってしまいます。
この病気も過敏性腸症候群と同様に急性腸炎や抗生物質使用後などに発症することが知られていて、治療も同様に整腸剤、糞便移植や、真菌を倒す抗真菌薬を用いることがあります。腸の病気だけでなく、このほかにもアレルギー性の病気や生活習慣病など、腸内細菌が関係するとされる病気は研究が進むにつれて増えています。
ではどうしたら良いの?
それでは、このような腸内細菌を念頭においた好ましい食生活とはどのようなものか考えてみましょう。
それには良い微生物を取り込むことと、それらをよく育てるということを考えるとよいです。まず人体に有益な微生物を含んだ食品となると、発酵食品が該当します。
食品の歴史はそれぞれであると思いますが、味噌、納豆、漬物などが日本人の腸に適したものである可能性が考えられます。
発酵食品で育った微生物を腸の中でさらに育てるにはどのようにすればよいでしょう。
おそらく、発酵食品と同じ素材を腸に送り込むとよいだろうと思います。味噌や納豆であれば豆類、漬物であれば野菜類です。
現在それほど普段の食卓にのぼる機会は減ったでしょうが、魚醤や寿司の原型であるなれずしなどであれば、魚類をたべるとよいだろうと思います。
それらが口で咀嚼され、胃や十二指腸で消化液と攪拌され腸にたどり着くと、そこに定着したかつて発酵食品で育った微生物が、昔育った食材を餌に繁殖できるというわけです。
このように考えると、普段の食材も冒頭にあげた私のような西洋風の食生活よりも、和風の腸内細菌が喜ぶ和食の比率が現在よりも少し高まると好ましいであろうということがご理解いただけるのではないかと思います。
今はコロナウイルス感染症が世の中に広がり、健康面での不安に思う方がとても多いと思います。
この機会にぜひ食事内容を見直していただき、腸の中から健康をつくっていきましょう。
まずは免疫第1
とは言っても毎日の食材探しは面倒
それならズバリ、腸内細菌が喜ぶサプリ、知っていますか?
それは、
毎日善玉
資料提供=NPOおじいさんの知恵袋の会